2011年10月4日火曜日

【六花38号H21-3】中国と熟語シリーズⅧ

急激な寒さで風邪気味です。今日は六花の好評連載をお楽しみください。
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「 噛 老 」  K.K

 今の中国は社会の変化が著しく、日常の言葉も絶えず変化していて辞書が追いつかない。二、三年中国語を学んだ人なら辞書が役立たなくて苛々したことが何度かあるはずだ。パソコン用語はもちろんのこと、せっかく覚えた日常の単語も
「今はもうそんな言い方しません。」
と言われてがっかりすることがよくある。辞書にない言葉はインターネットで検索すれば良いと教えてくれた人がいた。なるほど単語を入力すると、それに関する文章がどっと現れる。新しい言葉には解説も載っているので辞書としては重宝だが、そこにもまた新しい言葉が登場する。そうやって見つけた言葉のひとつに「噛老」がある。老人を噛む、つまり親の脛を齧るということで、ニートは噛老族という。
 四十年前の中国語テキストは実に退屈だった。「困難を克服する」「労働者たちは祖国のために日夜休むことなく働いている」などという文例ばかりで、とうてい中国人と友達になれそうもないと思っていた。噛老のほかに悠客(スローライフ)、宅男宅女(おたく)、裸考(コネも優遇もない受験)などといった言葉を見ると、中国も普通の国になったものだとしみじみ思う。
 ところで三年前に私の娘は結婚したが、夫は娘が子供のうちから結婚式には必ず泣くと宣言していた。それなのに式場のドアが開いたとたん、夫はニコニコしながら娘と腕を組んで登場したのだ。後で夫が言うには、開式直前にドアの前で、
「ああ、これでもう脛を齧られなくなるなあ。」
としみじみ言ったところ、娘は
「何言ってんの。しっかり齧るからよく洗っときなさいよ。」
と言って父親の脛を思いっきりハイヒールの先で蹴飛ばしたのだそうだ。おかげで泣き損ねたと夫はぼやいていたが、その言葉通り我家の噛老娘は今でも老いさらばえた父親の脛にしっかり噛みついている。

1 件のコメント:

Dogu さんのコメント...

コメントが入らないという報告がありました。
今度はどうでしょうか。