2011年7月24日日曜日

「簡単な漢字まで仮名書きされる」ことについて 6

「漢字と仮名の使い分け」の問題について、前回までいくつかの考え方を紹介してきました。
では国語政策を所管する国(文化庁)は、この問題についてどのように考えているのでしょうか。文化庁が編集している「言葉に関する問答集 総集編」には次のように載っています。

〈漢字と仮名の書き分け〉
・~漢字と仮名の書き分けも必要である。それは、漢字がそれぞれ意味を持っているために、同訓の漢字の統合にも限度が見られるからである。
例えば、「あたる」と訓読みする漢字に「当・該・方」などがあり、これが「当たる」に統合されている。しかし、「的中・中毒」の意味の「あたる」まで「当たる」に統合できるかというと、少し無理な感じがしないわけでもない。そこで、目安として定められた「常用漢字表」の漢字に適切な字訓のない場合は、仮名で書く方が好ましいことにもなる。「目的物に届く」場合や「体に害になる」場合に、「当たる」でなく、「的にあたる」「食べ物にあたる」のような仮名書きが行われるのはこのためである。
~異字同訓漢字の書き分けという立場から見ると、「あたる」の場合は本来「中」を用いていたものが仮名で書かれることになる。~その点では、漢字の使用を制限したための仮名書きが、漢字と仮名の書き分けを生むに至ったと考えてよいのである。

・ところで、漢字と仮名の書き分けという立場で取り上げると、漢字仮名交じり文を整える立場での書き分けも見られるのである。一般に漢字仮名交じり文では「峰が表れた」のように、助詞や助動詞の部分が仮名書きになる。それに合わせると、助詞や助動詞に準ずる次のような語も、仮名書きにするほうが整うのである。
 助詞に準ずる語…とともに、について、によって
 助動詞に準ずる語…ておく、てくる、てみる、ていただく
また、名詞の中で特別の用い方になる次のような形式名詞も、同じような立場から仮名書きが好ましいことになる
 こと、とき、ところ、わけ、とおり
これらも実質的な意味を表す語ではないという点で、前記と共通する性質を持つからである。
しかし、このようにして仮名書きになる語の場合も、本来の実質的な意味を表す用い方をすれば、漢字書きにするのは当然である。したがって、このような場合にも、漢字と仮名の書き分けが行われることは、次の例に見るとおりである。
 共に、ともに…行動を共にする、春とともに訪れる
 下さい、ください…本を一冊下さい、見てください
 事、こと…事に当たる、考えたことを言う
漢字仮名交じり文として整えることを考えると、このような観点から漢字と仮名を書き分けるのが好ましいということにもなるのである。
(※上記下線は私が付した。)

文化庁は、目安としての常用漢字表を公表している立場から、その整合性を図るという考え方がうかがえる。また、昨年11月に改定した常用漢字表に合わせて、「公用文における漢字使用等について」(平成221130日内閣訓令第1)※も公表されており、基本的な考え方が整理されていて参考になる。興味をもたれた方は一度は目を通されることをお勧めしたい。  ※文化庁 常用漢字表HP  http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/kokujikunrei_h221130.html#kunrei

⇒思うに、常用漢字はあくまで目安であるから、これ以外の漢字使用もどんどん使用されてよいし、難読語には振り仮名を付せばよいだけのことである。しかし、漢字も仮名も文章のなかで使用されるものであり、自分だけしか読まない日記ならいざ知らず、必ず読み手がいる。その読み手にとって、読みやすく、あるいは心に届く文章という視点で考えると、視覚的・音楽的効果のある文章の書き方の工夫は望ましいと思う。
 学術的論文などの専門的文章を除けば、漢字と仮名の使用バランスや文章全体の統一的な使用が必要であり、また、助詞・助動詞・形式名詞などは原則として仮名を使用するという文化庁の方針も参考にすべきだろう。
 いずれにしても、絶対的な規則はないのであるから、各自の一定の見識のもとで使い分けするしかない、というのが私の現在の考えである。(このテーマはこれで一応のまとめとさせていただく。)

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