2011年5月23日月曜日

【六花31号 H19/3】中国と熟語シリーズⅠ

機関紙「六花」に好評連載した「中国と熟語シリーズ」を定期的に紹介します。ご一読ください。

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「 葉 公 好 龍 」K・K
           
 昔、葉公というとても龍の好きな人がいた。家の中は絵画、家具調度品、寝具、衣服など至るところ龍の図柄で溢れていた。人々は「一番龍が好きな人は葉公だ」と感嘆していた。葉公自身も自分以上に龍の好きな人はいないだろうと内心得意になっていた。
 やがて天上にいる本物の龍がこれを聞いていたく感じ入り、葉公に一目会ってやろうと人間界に降りてきた。ところが雷鳴とともに目の前にぬっと現われた龍の姿に葉公は腰も抜かさんばかりに仰天し、一目散に逃げ出すと物陰に隠れてがたがたと震えていた。人々はこれを聞き、なんだ葉公が好きなのは偽物の龍であって、本物の龍ではなかったのかと笑ったという。
 私は「日中友好」の四文字を見るといつもこの「葉公好龍」を思う。日中間には長い交流の歴史があると漠然と思われている。昔から日本人は三国志を読んで中国人は気宇壮大だと思い込み、論語を読んで中国人には徳があると思い込んでいる。漢詩を読んでは中国人の豊かな感性に感動し、ワイルドスワンという本を読んでその信憑性を疑いもせず中国人に同情する。
 ところが二千年にもわたって中国からやって来たのは文化だけであって本物の中国人に会った事のある人は極めて少ない。中国へ行った事もなければ中国人と話をした事もないという日本人は今でも実に多い。それでも何となく中国をわかっているつもりになり、日本とは全く違う価値観を持った別の国であるという意識が薄い。そういう人が仕事などで本物の中国人と渉りあうようになると厳しい現実の姿に戸惑い、すっかり中国嫌いになってしまう。だから中国へ進出したほとんどの日本企業は中国人を信用せず幹部に迎えることはない。すると中国人は仕事を身につけるや膨大な情報とともにさっさと別の企業に移ってしまう。裏切り行為だと思った日本人はますます中国人を信用しなくなるという悪循環に陥ってしまうのだ。残念でならない。
中国人の方も国策による反日教育で深い憎日感情をもっている。互いに偽物の龍を愛し、憎み、本物の龍を見ようとしていないのだ。
世界中で日本と中国ほど近くて遠い国はないようだ。

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